矯正は長く期間のかかる治療であり、稀に患者さんが治療の中止を要望するケースがあります。
確かに、矯正は病気を治すための治療ではなく、中止することで命にかかわるわけではありません。
また、何より自由診療ですから文字どおり治療の意思は患者さんの自由でしょう。
「子供がどうしても矯正を嫌がる」「出張が決まって通院ができなくなった」など、
中止を要望する理由は様々ですが、医師の立場として回答すれば中止はおすすめできません。
矯正の中止は確かに可能ですが、治療を中止することはデメリットしかもたらさないのです。
矯正は、治療した分だけ成果が出るものではなく、最後まで治療してこそ成果の出る治療です。
仮に1年矯正を続けていれば、その過程で歯並びは改善されていくでしょう。
しかし、そこで止めてしまうと1年間の成果は全て失われてしまうのです。
「行った分だけ成果が出る治療」ではなく、「最後まで行って成果が出る治療」です。
つまり例え何ヶ月…それどころか1年以上行っていたとしても、
途中で止めてしまえばこれまでの矯正治療の成果は全てムダになってしまいます。
と言うのも、中止した時点ではこれまでの治療の成果を実感できるでしょうが、
動かした歯はいずれ元の位置に戻ろうとするため、結局歯並びが元に戻ってしまうのです。
「最後まで矯正して保定装置で後戻りを防ぐ」、ここまで行ってこそ歯並びを改善できるのです。
矯正の中止を要望する人には、ひとまず休止の提案をすすめています。
休止とは、完全に治療を止めるのではなく一時的に中断することを意味するもので、
中止の理由によっては休止で解消されるケースもあります。
例えば、1ヶ月間の出張を理由に中止を希望する場合、その期間なら休止での対処が可能であり、
出張が終わってから改めて矯正を再開すれば良いのです。
ただし、休止の場合は治療計画どおりに進まなくなることに対しての了承が必要になります。
矯正では、治療開始の時点で医師がある程度の治療計画を立てますが、
その計画にはもちろん患者さんが治療を休止する想定は含まれていないでしょう。
このため、当初の説明以上に治療期間が長引くなど、治療計画と実際の治療にズレが生じやすくなります。
やむを得ない理由で矯正を中止した場合、患者さんが最も気になるのが費用の返金問題だと思います。
ただ、費用の返金問題については歯科医院の契約内容にもよるため、この場で明確な回答の断言はできません。
もっとも、法律を元に回答すれば「治療を行った分だけ支払えば良い」という答えになります。
仮に矯正の費用を100万円支払ったとして、40万円分の治療を行った時点で矯正を中止したとします。
この場合は60万円が返金されることになり、既に全額支払っている場合、おそらくこのような対応になるでしょう。
また、もっともスムーズなのは歯科医院が処置別払い制を採用しているケースです。
処置別払い制とは通院するたびに費用を支払うシステムで、
虫歯や歯周病の治療費の支払い方を想像すると分かりやすいでしょう。
この場合はシステム的に先の治療費を支払っていないため、返金の処理は一切必要ありません。
「矯正を途中で止めると全てがムダになる」と解説しましたが、
人によってはムダになるどころか、むしろ歯並びが元の状態より悪くなってしまうことも考えられます。
特に大人の矯正の場合、治療において抜歯を必要とケースが多いでしょう。
これは矯正で歯を並べるためのスペースを作るのが目的ですが、
矯正を中止することで作られたスペースが逆効果になってしまうのです。
矯正によって動かした歯は、中止することで元の位置に戻ろうとするでしょう。
この時、スペースが作られているため戻った位置の左右に余裕が生まれます。
そうすると歯は傾き、元の歯並びよりも悪くなってしまうのです。
また、スペースによって歯と歯の間に極端な隙間が生じる可能性も考えられます。
いかがでしたか?
最後に、矯正の中止についてまとめます。
1. 治療の成果が全て失われる :矯正を中止すれば、これまでの治療の成果は全て失われる
2. 休止の提案 :治療計画にズレが生じることに了承すれば、一時的に治療を中断する対応も可能
3. 中止した場合の費用の返金 :契約内容は歯科医院によって異なるため、「おそらく」の回答しかできない
4. 中止によって歯並び悪化する :矯正を中止すれば、抜歯などの影響でむしろ歯並びが悪化することもある
これら4つのことから、矯正の中止について分かります。
矯正とは、歯並びを改善して後戻りを防いでこそ成果の出る治療であり、
途中で止めてしまうとこれまでの成果は全て失われてしまいます。
また、治療の成果を失うどころかむしろ歯並びが悪化してしまうケースもあるのです。
このため、矯正を検討する時には長い期間の通院が可能かどうかも考える必要があり、
仮に長期間の通院が不可能なら矯正はおすすめできません。
こばやし歯科院長 小林敦
・1983年 岩手医科大学歯学部卒業
・岩手医大付属歯科病院 歯周病学教室勤務
・TAO東洋医学会会員
・日本訪問歯科協会認定医